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川島直也(左)
介護老人保健施設 寿生苑
理学療法士(PT)

島根県内の専門学校を卒業後、2010年に特定医療法人 壽生会 寿生病院に理学療法士として就職。その後介護老人保健施設 寿生苑へ異動し、現在主に通所リハビリテーション、訪問リハビリテーションにて生活期のリハビリテーションについて日々奮闘中。座右の銘は「初志貫徹」

景山洋一郎(中)
出雲市民リハビリテーション病院
言語聴覚士(ST)

大学では経営情報学を専攻。卒業後は民間企業での勤務。転機があり、2009年養成校に入学し、資格取得。2011年より出雲市民リハビリテーション病院に勤務。2016年から約3年間、同法人の大曲診療所での訪問リハビリを兼務。

黒田曜嗣(右)
えだクリニック
作業療法士(OT)

リハビリ専門学校卒業後、広島県の精神科病院へ就職。 精神科病院の重度認知症デイケア・精神科デイケア・認知症治療病棟を経験後、島根県へ帰県。 再就職にあたり、在宅で生活している方のサポートをしたく、現在はえだクリニック整形外科/リハビリテーション科・介護保険部・訪問リハビリ所属

セラピスト。またの名をリハビリ職。
介護への注目が増す中、理学療法士(PT)、言語聴覚士(ST)作業療法士(OT)という職種を耳にする機会が多くなってきた。
しかし、それぞれがどんな仕事をしているかを知っている方は少ないのかもしれない。
今回は出雲市内で活躍する三人のセラピストに集まってもらい”セラピストが見る介護の現場”を中心に対談が繰り広げられた。

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リハビリ職とは?

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本日の司会は介護施設小規模多機能型居宅介護「セカンド・サロンえるだー」の管理者で、出雲地域介護保険サービス事業者連絡会青年部会長の黒松慶樹が執り行わせていただきます。
リハビリ職は、介護を語る上でよく聞く職種であると思います。しかし実際にどんな仕事をしているか、種別の違い等を知っている方は少ないのかもしれないとも思います。
今回は三人のセラピストに集まってもらい、普段の仕事と、介護現場との関わりについて話をしていただきたいと思います。
まずそれぞれの自己紹介をお願いします。

pt

介護老人保健施設 寿生苑で訪問や通所の理学療法士(Physical Therapist、以下PT)をしている川島直也です。
一言で言うのは難しいですが、PTが受け持つのは基本動作の回復です。寝返る、起き上がる、立ちあがる、歩くといったことが含まれます。
日常生活の基礎となる筋肉やカラダの動きをリハビリする職種といったところですね。

st

出雲市民リハビリテーション病院で言語聴覚士(Speech-Language-Hearing Therapist以下、ST)をしている景山洋一郎です。以前は介護保険の訪問リハビリも行っていました。
STの仕事は簡単に言うと、話すこと、聞くこと、食べるなどの機能についてリハビリをしていきます。
話すことに関しては、ろれつがまわらない方、吃音、脳卒中の後遺症である失語症など、聞くことに関しては聴覚障害、後天的なものから、生まれつきの先天的なものまであります。
食べることに関しては嚥下障害が代表的でしょうか。

ot

えだクリニックの介護保険部で訪問リハビリの作業療法士(Occupational Therapist以下、OT)をしている 黒田曜嗣です。
OTの仕事は幅が広くて一言で言うのはとても難しいですが、PTにより基本動作が回復した後、日常動作や感情の回復などを担います。
入浴、食事、排泄といった日常動作や、編み物や絵画等の手工芸、花木の育成などの趣味活動、うつ病等の精神障害の対応まで多岐にわたります。
言うなれば、その人がしたいこと、楽しいと思っていることをできるようにする仕事だと思います。

 pt

大きな分類としてリハビリ職は3つに分かれますが、PTはPTの仕事だけをするといったことはないです。現実的に現場で切り分けることはない。患者さんを診ていて、食べている時の姿勢が気になったら食事も見るし、入浴は排泄の動作も同様です。OT的な日常生活の楽しみを見つけてあげることはPTにだって必要。
以前のその方がどんな生活スタイルだったのかに僕らは目を向けて、それに少しでも近づけていくための手助けをするのがリハビリ職だと思います。

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どうしてこの仕事を目指したのか?

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みなさんはどうしてこの職業を目指したんですか?

pt

これまでに何度か大きな病気をしてリハビリの現場を身を以て知ったというのが原点です。生まれつきの病気があり、22歳の時に大きな手術を受けました。その数年後には別の理由で入院したのですが、その時は失語症も出て言葉が出ない怖さを思い知らされました。リハビリをしながら、そこでの医療スタッフの方の仕事を見て、自分もこんな手助けができたらいいなと思ったのです。

st

私の場合、学校を卒業して民間企業で働いていたんです。何か違うなと思いながら「資格を取ろう」と考えました。初めリハビリ職に抱いていた思いは、景気に左右されない安定した職業でしたし、当時はSTが圧倒的に少なかったんですよ(笑)
とにかく今STを選んでよかったと思っています。
日本人って食に対するこだわりが強いですよね。それこそお粥ではなく米粒にこだわる文化があります。例え寝たきり状態や死の間際になったとして、食べ方は人それぞれでも「食べたい」という欲求はあります。人の最後の尊厳。そこに関われるのはすごく嬉しいですね。もちろん危険も伴いますが、言葉でない絆が生まれるというか。

ot

私は介護職をしていた親の影響です。
景山さんの話にもでましたが、ST同様、OTもまだ人数が少ない分野。専門学校で資格を取得しましたが、本当にこの仕事の可能性を感じたのは学校での実習でした。沖縄出身の方がおられて、元気になって沖縄に戻り園芸がしたいというのが口癖でした。患者さんの希望を叶えるためにリハビリの目標が立てられ、それをクリアしていかれました。実習終了後、その方は元気になられ、沖縄に戻られたと聞きました。
あと、精神科での実習の思い出が。私と同い年の方でしたが、事後に遭われその後機能は回復したのですが、部屋に閉じこもってしまった方がおられました。幻覚、妄想もひどく、訪れる私のことも怖かったようです。布団の中に籠ってしまったり。しかしその方と時間をかけて関わっていくうちに、「お母さんに何かプレゼントがしたい」と言われ、一緒に実現していきました。その後、部屋から出られるようになったんです。
OTは患者さんの希望に真摯に向き合い、どうしたらそれを実現できるのかを考える大切な仕事だと体験しました。

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3者で志望の動機が異なっていても、自分の仕事が楽しくこの仕事を続けられているという共通点があります。
患者さんと向き合い、一緒に未来を作り上げていく喜びは、リハビリ職には仕事を超えた何かがあるのかもしれませんね。

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介護と医療の連携

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さて、みなさんリハビリ職として介護保険分野の担当をしている、またはされていたということがあると思います。介護保険となると主に高齢者を担当することが多くなると思いますが、高齢者と若い世代とのリハビリに大きな違いはありますか?
高齢者は当然筋力も弱ってきたり機能的な部分にも支援が必要になってきているし、若い世代に比べて機能回復が難しいイメージ。その辺の難しさを感じられたことありますか?

pt

まず、高齢の方は一つの病気で来られることが殆どないです。
例えば脳血管障害だけじゃなく、過去に肺がんをしていたり、脳梗塞も何回もしてますとか、理由が把握しにくいところにも難しさがある。
そういった方は教科書通りのことをしても通用しない難しさがありますね。

ot 身体的なところ、社会的なところ、精神的なところ、3つをバランスよく診るということも大事ですね。
st 社会復帰の難しさはありますね。
回復が進み、入院診療から在宅診療に変わったあとの社会参画ですね。
訪問をすることで切れ目のない介入ができればと思うけれど、それもなかなか難しいようです。
sk02

社会復帰の話が出たのでお聞きします。
病院でリハビリをして退院したのち、介護施設や家に戻られ、患者さんがどういう風に生活しているかとか、知る術ってあるんですか?
リハビリ職は退院退所されたあとに初めて「自分たちがやってきたことが評価される」という側面もあるかと思いますが。

 pt

退院後のフィードバックについて、問題になっていると聞いています。
病院から在宅や介護施設に戻った後、どんな状態だったかの情報は少ないようです。

 ot

だから今ICTなどを用いた医療と介護の連携が主流になってきつつありますね。

 st

医療と介護の連携の問題はずっと前から言われてきたことです。
例えば介護施設から病院に移動された場合、施設でどんな状態だったのか?
日常生活を送る上で何が重要なのか?といった情報はもっと欲しいなと思う。
患者さんの以前の情報って本当に大事だけど、内容の質も量も決まりがなく、施設によってバラバラです。
実際に知りたい情報も分野によって違うから、統一が必要なのかもしれないですね。

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セラピストから見える介護の現状

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医療施設と介護施設による情報共有の問題をお聞きした上で、医療と介護の連携についてお聞きします。皆さんのリハビリ職は医療職、ドクターの指示のもとで動くのですが、一緒に働く介護スタッフは介護職、ケアプランや計画書をもとに動きます。訪問等で一緒にケアをすることも多いと思います。何か気付くことってありますか?

 pt

仕事をしている上で、いろいろな場面で認識の隔たりを感じることがあります。リハビリ職として当たり前にやっていることが、介護職では難しかったりするがよくあります。車椅子移乗にしても、車椅子のアームレストやベッドの高さの上げ下げにしても、フットレストを外にはねるにしてもリハビリ職では当たり前。けれど介護の現場では必ずしもそうじゃないことがある。逆もまた然りの部分はありますけど(笑)。
あと、介護スタッフの方に腰痛持ちの方が結構いると認識しています。一緒に働いていて”このように動作したら体の負担が減るのにな”と思う場面が多くあります。介護職は本当に激務だと思う。だからこそ時間がなく、とにかくスピードが一番なのでしょうが、体を壊しては元も子もない。それに介護職の苦しみの表情や感情は必ず利用者さんに伝わるものだと思う。

 st

リハビリ職と違って、介護職は一番患者さんの近くにいて、色んな情報を持っていたりその人の事をすごくよく知っていると思います。それはリハビリ職には出来ないこと。だから、リハビリ職と介護職の垣根をなくすことって患者さんにとってプラスになることですよね。
しかし介護と医療、それぞれ考え方や業務の違う環境の者同士が一緒になることでコミュニーケーションや認識違い等のトラブルも生じている。ともに歩み寄ることが必要だ。
例えばリハビリ職においては、某県のある病院では最初に介護の仕事を年単位で学ぶことから始めるそうです。介護の仕事を経験した上でリハビリを行っていくのと、知らないのでは視点がまるで違うと思う。介護職とリハビリ職が手を組んだら最強ですよね。

 pt

リハビリ職は業務独占じゃなく、名称独占。だから、介護職においてはリハビリ職がよく患者さんとやっている筋トレや関節可動域エクササイズを業務に取りいれることも法的に可能。
正直リハビリ職だけがやっているだけでは間に合わないという現状もある。

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セラピストは専門職であり、ドクターの指示があって動く医療職。介護職も専門職だからお互いに「私たちとは違うんだわ」と職業上の違いを感じると気持ちも分からなくはないですけどね(笑)。
セラピストと介護職の連携は患者さんのQOL(生活の質)や機能の向上を考えた時に必要だと思う。それにはセラピストと介護職とが一緒に勉強する機会が増えると良いですよね。今、その機会が本当に少ないので。

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これからセラピストを目指す方に
セラピストという職種の魅力

st

私たちが関わる利用者さんや患者さんは、回復の見通しがまだたっておらず、言うなれば「第二の人生として」現状を受け入れ、再スタートを切られるのです。
そのアシストができるというのは非常に魅力ある仕事だと思う。
患者さんと私たちとの信頼関係の構築が一番重要。
まだ歩行もままならい状態から無理のない短期目標を立てて、ひとつひとつクリアしていきます。少しずつできるようになるという目標達成の積み重ねを患者さんと共有できる喜びがあります。

pt

PTは「病気をみるな、その人をみろ」と教えられてきます。その人としっかりと向き合って一緒に歩んでいくのがこの仕事の本質。僕らの仕事って止まれないんです。提供するものに関しては。だからずっと誰に対しても同じ事をしてはいけないし、常に勉強をしないといけない。

患者さんにとって短い目標を立ててひとつひとつ達成できていくのは本当に良いことだし、僕らは達成感を感じて欲しいと思いながら仕事をしている。
私はPTだけどPT的なことじゃなくても良い。
例えばある方が病気のために上着が着られない人がいたとします。ちょっとしたアドバイスでそれができるようになる。そのレベルで良いんです。そのひとつひとつの積み重ねが大事。こうしたらできるようになるかな?ああしたら?といった工夫を考える全ては患者様のためです。その人のことを考えて工夫をすることは本当に楽しいです。

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これからセラピストになる方に向けて、メッセージはありますか?

pt

リハビリ職に資格を取得された方が増えてきて、今後、就職難になるかもしれないと危惧しています。
本当に実力のある人だけが生き残っていく職種になるかもと思っています。
だからこそ学生の頃から努力をしてほしいし、同じPTとして働くという立場からは、知識だけじゃなくて人間味をしっかりと養っていてほしい。
人間をしっかりとみることができるか?がリハビリ職です。

st

リハビリ職全てに言えることだけれど、止まることができない仕事だと思っています。
患者さんとの関わりも、自己研鑽も”この程度でよい”は絶対にない。
だから勉強を続けていかないといけない、やり甲斐のある仕事です。
リハビリ職を続けていると本当に患者さんのことを真剣に考えるようになります。
患者さんにケアを一方的に提供するだけではなく、患者さんと選んで、提示していく。
みんなで連携して考えるという素晴らしい仕事です。

ot

セラピストも医療職なので死と直結しています。失敗は許されないし責任は重いです。
けれど医療福祉関係の仕事はとても面白いと思う。
その理由は認知症や子供にもつながっていくけど、第二の人生を一緒に考えることができるという仕事だから。


 

3者が”まだ話し足りない”と口を揃えるほど白熱した討論会は2時間以上にも渡り続きました。

理学療法士 (PT)、言語聴覚士(ST) 、作業療法士(OT)それぞれがプロフェッショナルな視点を持ち、お互いを補いながら存在しています。
リハビリ職は患者さんの能力の回復をするだけが役割じゃなく、その方の心を十分に理解した上で回復目標を計画し、未来を一緒にデザインする仕事なのです。

今回の対談では、医療職と介護職の連携について情報共有の難しさが話題に上がりました。
リハビリ職と介護職で必要な情報が共有される環境の実現が、利用者さんにとっても、介護従事者にとっても、明るい未来になることについて間違いなさそうです。

■今回の未来座談会 関連リンク

介護老人保健施設 寿生苑

出雲市民リハビリテーション病院

えだクリニック