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介護業界の人材不足解消に向け、介護現場での外国人材の雇用が今後さらに必要になると見込まれるなか、出雲市佐田町の社会福祉法人やまゆりでは、現在フィリピン出身の職員を雇用している。
今回は、外国人職員の方々に、職場での様子や仕事に対する思いなどを伺い、雇用の経緯や現場での取組、今後の展望について、渡部理事長、多田施設長などにお話を聞かせていただいた。

楽しい!と実感する日々

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お話を伺ったランさんとアヤさん。

みなさん開口一番に「介護の仕事はすごく楽しい!ここは良い職場!」と話し、仕事に満足している様子を感じる。
利用者を家族のように思いながら接しているという皆さんに、実際に働く様子や心掛けていることを伺った。

デイサービスで介護職員として働くラン(仮名)さんとアヤさん(仮名)は、この分野は未経験ながらも、介護の仕事に興味を持ち入社。
利用者と打ち解けるために、積極的に会話をするよう意識したそうだ。

「利用者一人ひとりの性格を知っていくうちに、利用者さんが何を思っているのか分かるようになり、気持ちを共感できるようになりました。
レクリエーションに英語の遊びを取り入れると、‟アルファベットを教えて“と声を掛けられ、英語の先生として慕われるようになり、嬉しくなりました。
逆に私には皆さんが出雲弁の先生で、いつも大笑いのやりとりが本当に楽しい!」と話すランさん。

嫁ぎ先の家族が施設に入所し、介護現場に触れたことがきっかけでこの仕事を始めたアヤさんは、

「最初はお年寄りに少し苦手なイメージを持っていましたが、働き始めるとだんだんイメージが変わり、今は利用者さんの気持ちを理解しようと思えるようになりました。
コミュニケーションの難しさを感じる時もありますが、心の距離を近づけ、愛をもって接することを心がけています。
自分の心を広く持つことが大事だと気づいてからは、嫁ぎ先の家族に対する思いもより深まりました。」
と、仕事を通して自分自身の在り方も見つめ直すことができたと話す。

特別養護老人ホームで働くメアリーさん(仮名)は、前職で2年間介護分野を経験し、インタビューの1か月前に採用されたばかり。

「職場にきて最初に、‟利用者さんの尊厳を大切に、尊敬する気持ちを持って接すること“と教わりました。
認知症の方や身体が不自由な方、病気がある方など一人ひとり違うので、細かいことまでしっかり聞いて、適切なケアができるよう気を付けています。
技術のスキルアップや資格取得に挑戦して、現場で知識を活かし、今以上に皆さんを支えられるように頑張りたい。」
と、目標を持って意欲的に仕事をしている意気込みが伺える。

最初は不安だったと話すニキ(仮名)さんは、毎日頑張る利用者の方々の姿に元気をもらい、自分も見習いたいと頑張っているという。

「一番大切なのは‟愛のある心“です。うまくいかなくて落ち込むときもありますが、周りの先輩方が励ましてくださるので安心できます。
休日は家族でドライブに出かけてリフレッシュ!しっかりエネルギーチャージすることで気持ちも切替わり、毎日をポジティブに過ごせます。
仕事は楽しくにぎやかに、いつも笑顔を心がけています。」
と、周りの理解あるサポートに支えられているそうだ。

時折、流暢な出雲弁と面白いエピソードを交えながら話す4人は、とにかく明るく賑やか。
向上心の高さも素晴らしい。それぞれの個性と長所を活かして、自分らしく仕事を楽しんでいる様子が伝わってきた。

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外国人雇用から見えてきた可能性

「始まりは、最初の外国人職員となるランさんの家族から施設にかかってきた求人の問合せでした。
長年佐田町に在住し、基本的な会話ができたことなどを考慮して、人員が不足していた調理員として採用することにしました。
しかし、ランさんの明るく陽気な人柄や、“介護の仕事がしたい”という熱意を知り、今はデイサービスの介護職員として働いてもらっています。
仕事に意欲的なランさんは、介護の仕事は未経験ながらも現場で実践しながらスキルを身に付け、その人柄から自然と利用者さんたちにも好かれていきました。
距離感を図りながら気持ちを察する能力にも優れていて、タイミングを計った声掛けで利用者さんをお風呂へ誘導するのも上手なのです。
細かな指導は必要ですが、問題なく仕事を任せられるとわかりました。」

ランさんの意欲的に働く姿や能力に安心し、外国人の雇用に対する懸念が払しょくされた多田施設長。
これがきっかけとなり、今ではランさんと以前から交流があった佐田町在住のフィリピン人の方など、4名の外国人職員が雇用されている。

外国人も介護の仕事に興味があるとわかったことが一番の発見だったと、今後の人材不足解消へ可能性を感じたそうだ。

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やまゆり苑の多田施設長。

新たな体制づくりが業務の効率化に思わぬ効果をもたらした

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外国人職員と一緒に働くために実際に現場で取り組んだこと等について、日頃、現場で彼女たちの指導に当たる管理職員3名に伺った。
特別養護老人ホームでユニットリーダーを務めるKさんは、施設として最初の外国人介護職員となるニキさんの指導を担当した。

「まずは職員全員でフィリピンの国民性や文化の違いを知ろうと、勉強会を開きました。
その甲斐あって、事前にみんなが認識を共有することができ、抵抗なく受け入れることができました。
簡単な会話はできましたが、漢字や難しい表現は苦手と聞き、配付する資料などは全て平仮名でふりがなを振るなどの対応をしました。
業務中の細かな指示は、短くシンプルに伝えることを心がけ、難しい単語の意味を伝えるときは、スマートフォンの翻訳機能を使っていました。
実験的な試みとして外国人介護職員を受け入れることとなったので、正直不安もありましたが、徐々に慣れていくことができました。
また、受入の経験や現場で生じた課題を基に、業務マニュアルも一新しました。
二か国語のテキストや平仮名のルビを振り、写真や数字を多用することで、外国人職員でもわかりやすいようになっています。
ほかにも、ポケトークという翻訳機を導入して、より素早く意思疎通ができるようになったほか、写真で撮影した文章を翻訳音声にして流す機能も使い、ノートで連絡事項を伝えることもできるようになりました。」

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インタビューでも登場したポケトーク。言葉だけではなく文字読みからの翻訳にも対応する優れもの。

働きやすいグローバルな職場づくり

別ユニットで同じくユニットリーダーを務めるSさんは、こう話す。

「一緒に働いて感じるのは、皆さんの意欲的な姿勢です。
言葉も文化も違う日本で新しい知識を身に付けて働くことは、本当にすごいと思います。
私も彼女たちが少しでも働きやすい職場になるよう、コミュニケーションを多くとり、声掛けで明るい雰囲気作りを心掛けています。
これは、彼女たち外国人の職員だけに限らず、日本人の新人職員や実習生に対しても共通していて、新しい環境で‟受け入れてもらえている“と感じるとポジティブな気持ちになり、お互いに働きやすくなることを実感しています。」

デイサービス部署でリーダーを務めるNさんは、ランさんやアヤさんと一緒に働く中で感じた驚きについて語ってくれた。

「約20年介護の仕事をしてきて、まさか外国人の方々と一緒に働くとは想像もしていませんでした。
受入初日は利用者さんの反応が心配でしたが、挨拶をしてもらったときに、皆さんに笑顔で迎えられる様子に安心しました。
こちらが勝手に身構えていたところがあり、いざ実際に働いてみると意外に違和感はありませんでした。
お互いを知ることで心を許せるので、休憩時間には家族の写真を見せてもらったり、休日の出来事を聞いたりと、何気ない会話を楽しみながら自然とコミュニケーションをとっています。
今後さらに知識や技術を身に付けられるよう、資格取得にもぜひチャレンジしてもらいたいです。
全面的に協力していきます。」

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実際に使用されている業務マニュアル。積極的なコミュニケーションを図るため施設側の努力が伝わります。

即戦力が求められる外国人材の育成を目指す

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社会福祉法人やまゆりの渡部理事長。

「彼女たちは本当に自慢できる宝であり、希望です。」と称賛する渡部理事長。

「心を込めて利用者さんと向き合いながら、いきいきと仕事をする様子を間近で見ていて、大変うれしく思っています。
この4名の雇用を経て、職務経験のない状態の人を介護職員として受け入れられるフォローアップ体制を確立することができました。
彼女たちのお陰で改めて現場の業務を見直し、マニュアルや指導方法を改善したことで、職員全体の意識や業務向上にもつながり、結果的に施設全体に良い風を吹き込むことができたと言えます。」

外国人職員の想像を超えた力に驚き、手ごたえを実感しているようである。

最後に、今後のビジョンについて伺った。

「これからも、働きたいという意欲がある人がいれば、職務経験や国籍は問わず積極的に受け入れていきたいと思っています。
また、今後はこれまでのノウハウを生かし、介護現場で働きたい出雲市在住外国人の技能習得や資格取得を支援し、やまゆりのみならず、出雲市全体の介護事業者との橋渡しをする、養成所としての役割を持つことができれば、と考えています。
即戦力となる人材と共にフォローアップ体制の基礎も提供できれば、他の施設も外国人雇用のハードルが下がるのではないでしょうか。
外国人が日本で安心して働ける職場を増やすことが、介護業界の人材不足解消にもつながると期待しています。」

「つなぎあいます ぬくもりのあるサービス」の基本理念を掲げる社会福祉法人やまゆり。
これからますます素敵なつながりの輪が生まれることだろう。

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今回の取材先

社会福祉法人やまゆり