介護の基礎的講座

特別養護老人ホーム
みせんの里
KMさん

特別養護老人ホーム
もくもく苑
Nさん

老人保健施設
まんだ
Kさん

特別養護老人ホーム
清流園
Yさん

特別養護老人ホーム
なのはな園
KRさん

介護老人保健施設
寿生苑
Hさん

中学校学習指導要領の改訂により「技術・家庭科」において、介護など高齢者との関わりを実践的に学ぶことが規定されたことから、出雲市では、令和3年度から市内の中学校を対象に「介護の基礎的講座」を実施している。

この講座を通じ若い世代に、高齢者や介護に対して理解を深め福祉の心を育むことや、介護職に興味を持ってもらい将来の介護現場を支える人材を育成することを目的として、出雲市、出雲市社会福祉協議会と共に、この講座の目的に賛同した15を超える介護サービス事業所・法人がボランティアにもかかわらず、日々の業務の間をぬって講師として協力してもらっている。

具体的な活動内容については、希望のあった学校へ現場で働く介護職員を講師として派遣し、座学や高齢者疑似体験を通じて、福祉の大切さや介護の基礎を学んでもらうというもので、今年度で3年目を迎えたが各中学校からの評判や生徒の反応も良い。

(取組内容「中学生向け介護の基礎的講座」に記載されています。)

 

そこで今回は、この取組を広く知ってもらうこと、取組に協力してもらえる介護職の仲間を増やすことを目的とし、協力事業所から講師として活躍する6名の介護職員に集まってもらい座談会を開催。介護の明るい未来に向け「今、自分たちにできる事とは何か?」これまでの取組を振り返りながら、中学生との関わりから感じたそれぞれの思いや気づきをもとに、福祉教育から見えてきた課題や展望など様々なことをざっくばらんに語り合っていただいた。

 

介護の基礎的講座

福祉とは人の幸せを願い、助け合うこと

まずは、座学について講座内容や具体的な取り組みを紹介していただきながら、それぞれが講師として心がけていることを伺った。

参加者H

講座は、座学と実技で各50分の授業を2限使って行います。
限られた時間でどこまで伝えられるか。福祉教育としての趣旨はもちろんですが、私たちの想いも含めて構成や資料作りなど、本当に色々なことを考えました。

参加者KR 中学生が理解しやすいよう、難しい言葉を使わないことは大前提ですが、まずは関心を持ってもらうことを一番に意識しました。馴染みのあるSNS用語の意味をかけて「#福祉をfollowしよう」というタイトルにしたり、イラストを使ってわかりやすくしました。
参加者KM タイトルを決めるだけでも、すごく時間がかかりましたよね!
参加者KR 伝え方も工夫しています。まずは、アイスブレイクとしてコンビニのロゴや千円札の裏側を描いてみようというのをやるんですが、いつも見ているはずなのに描けないんですよね。そこから、「福祉についても同じで、実は身近だけど興味や関心がないと理解できないんだよ」という伝え方をしています。KMさんはどんな伝え方をしている?
参加者KM 私はよく「サザエさん一家」を例えに出します。いつも夕食を囲んで、日常で起こった色々なこと話していますよね?何か問題が起これば必ず共有し、家族のアドバイスをもとに解決する。また、それぞれ立場や状況が違っても良い方向へ導いて助け合う。これこそが福祉の形だと思っています。だから、「みんなが助け合いを繋げていけば、社会全体に福祉の輪が広がるよ」と伝えています。この例えは、皆さんが共感してくれますね。
参加者K

KMさんに拍手! 私も今度使おう(笑)。とにかく身近に福祉があるということだよね。

参加者KR だから、まず初めに知ってもらいたいことは「福祉とは」なんですよね。介護は福祉の中の一つであり、福祉とは人の幸せを願うこと。そして幸せの形はそれぞれ違います。講座では、そこをベースに身近な例えで関心を持ってもらい、介護現場の事例も交えながら伝えることで、高齢者や介護に対して理解を深めてもらいます。

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特別養護老人ホーム もくもく苑 Nさん

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特別養護老人ホーム 清流園 Yさん

続いて、実技の高齢者疑似体験について伺った。

参加者N

体験では、まず3~4人で1グループを作ります。それぞれのグループごとに1人が疑似体験セットの装具をつけ、あとの人はサポート役になります。
装具で手が使いにくかったり、耳が聞こえにくい、円背、視野狭窄や白内障といった状態を再現し、体の動かしづらさを実際に体感することで、どんなサポートが必要なのか考えます。

参加者H 例えば椅子の立ち座りでは、杖や介助の有無による動作の違いを体験し、それぞれに楽な方法を考えます。視覚体験では、標識や文字を見たりしながら、色の見え方の違いを知ってもらいます。また買い物を想定し、財布の開閉や小銭の取り出しにくさを体験し、レジの支払いに時間がかかることを理解してもらいます。その他に、階段の昇り降りやゴミ出しなどの体験をしてもらった年もありました。
参加者KM 以前は、ただ重いものを繰り返し上げ下げして終わっていたんですが何か違うなと思って。日常生活の中で感じる大変さがイメージしやすい体験に変えようと、思いついたのがゴミ出しです。毎回、生徒の反応を見ながら試行錯誤を繰り返しています。これからも少しずつグレードアップしたいですね。
参加者K

毎年、回を重ねるごとに内容が良くなっているよね。
この疑似体験の目的は、決して高齢者だから“できない”のではなく、様々な動作が“部分的にできにくいこと”を知ることです。そして、その不自由さをどうサポートすれば良いか考えてもらいます。なので、より生活に即した体験を心がけています。

参加者KR そこなんですよね。こないだは、一人の生徒が「杖が倒れやすいから気を付けてね」と友達にアドバイスしていました。自分の実体験を早速活かしている様子を見て、良い経験になっているなあと感動しちゃいました!
参加者Y それは嬉しいですし、やりがいを感じますね。
参加者K 皆さん、熱心に取り組んでくださいますよね。この講座は、高齢者に限らず、「みんなに優しく、人としてお互いを尊重し合おう」という気持ちが自然と芽生える本当に良い講座だと思います。

3
特別養護老人ホーム みせんの里 KMさん

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老人保健施設 まんだ Kさん

介護職は自立した生活を支え、主役を輝かせるプロフェッショナル

介護の仕事に理解を深め、魅力を感じてもらえるよう意識していることは?

参加者KR 私は視覚障害の高齢者を支援しています。講座の中では、事例として、成功体験によって日々の生活が一変した方を紹介します。若い頃していた登山を諦めていたけど、私たちがサポートしながら一緒に登ったことをきっかけに、毎日トレーニングするようになって、毎年登山に行かれるようになりました。
参加者H それはすごいですね!
参加者KR 介護というと生活介助のイメージが強く、高齢者の身体機能が低下することばかりにフォーカスされがちですが、人によって状態は様々です。なので、「高齢者=何もできない人」という偏った認識は持って欲しくないことを伝えます。また、介護の仕事は生活介助だけでなく、人の尊厳を守り自立した生活を送れるよう支える、専門性の高い職種であることを知ってもらいたいですね。
参加者N

今は核家族が多くなって、介護を身近に感じる機会が少ないと思います。こういう体験で少しでも理解が深まれば、色々な意識が変わってくると思います。

参加者K 実は、親が介護職という生徒さんも結構おられます。この講座をきっかけに、改めて自分の親を尊敬し、誇りに思ってもらえたら嬉しいです。
参加者KR

どんな仕事に対しても、その考え方は持って欲しいですね。
福祉は人の幸せを願うことだと言いましたが、実はどの職業にも共通して言えることで、相手を思いやる行動全てが福祉の心と繋がっています。
だから、介護に限らず「家で疲れた顔を見せちゃっているあなたの親や、周りの大人たちは、みんな人の幸せを願って一生懸命働いているんだよ」って伝えたいですよね!
そして、これからも子ども達がかっこいい大人になりたいなって、憧れや将来へ期待が持てるような講義をしていきたいですね。

参加者KM もう、拍手しかないですよ!!

5
介護老人保健施設 寿生苑 Hさん

初心に帰って、学び直しができる場所

この取り組みを通して得た気づきや課題について伺った。

参加者H Yさんは、今年初めて参加されましたがいかがでしたか?
参加者Y 中学生との交流は新鮮で、積極的に取り組む姿や反応を見て初心を思い出し、福祉の基礎を再認識させてもらえる場でした。少しでも魅力を感じてもらえたら、将来の選択肢の一つに加わって、未来の仲間が増えることにも繋がるので、とてもやりがいのある良い取り組みだと思います。これからも参加していきたいですね。
参加者K

自分たちも勉強になりますよね。うちの事業所でも、講師として参加した職員は、やはり何か気づきを得たようで、意欲的にリーダーシップを発揮してくれる人もいて成長を感じますね。

 

参加者KR それは大きいですね!誰かに教えるということは、正しいことを伝える責任があるので、職員のリスキリングになるし、そこから新たな自分のセオリーを創ることにも繋がります。
参加者K ぜひたくさんの方に参加して欲しいですね。これを機に改めて参加してくださる事業所を募りたいですね。
参加者H そうですね。今回、皆さんの話を聞いてわかるように、講師として参加された職員は必ず何か得られる場だと思います。ぜひ一人でも多くの方に出かけていただきたいですね。講師の人数が増えれば、今より柔軟な対応ができると思うので、さらに内容が充実したものになりそうですね!今後もみんなで協力しながら事業を継続したいですね。
参加者N

この業界の強みだと思いますが、福祉の仕事をしている人は根本的に優しくて、みんなのために行動できる人。初対面でもすぐにチームになっていけるんですよね。なので、新しく参加される事業所さんも積極的に取り組んでいただきたいですね。

 

参加者KR 理想は、自分たちの事業所がある地域の中学校に講師として参加して欲しいです。施設を知ってもらって、困ったら相談できる身近な場所として、いつでも気軽に寄ってもらえるような関係性ができると良いですよね。斐川では、今年度から新たに2か所の事業所さんが参加してくださることになりました!
参加者K それは嬉しいですね。出雲市や出雲市社会福祉協議会のホームページで活動報告が掲載されるのでPRにもなるし、地域貢献事業の一環としても意義のある活動だと思います。
参加者H これまで、私たち事業所が学校の授業として福祉教育を行えるなんてなかったので、非常にありがたいことです。職業柄、私たちは皆さんが困った状況にならなければ会えません。なので、これがどんなに貴重な機会であるかを、事業所がもっと意識していかなければいけないと思っています。そして、両者にとって刺激になる時間として、今後も大事にしていきたいですね。
参加者K 先日、地域住民の方からお聞した話ですが、出雲市内のスーパーで高齢の方が困っておられた時に、通りかかった中学生くらいのお子さんが、すぐに近くへ寄って声を掛けながら手伝っておられたそうなんです。これを聞いた時に、もしかしたら講座を受けた子なんじゃないかな?と思いました!もしそうだったら、とても嬉しいですし、こういう行動を自然にできる子どもたちが増えるのは、地域にとっても良いことですよね。
参加者KR それは素晴らしい話ですね。
参加者H 最初の頃は色々なことを学んでもらおうと、とにかく必死でした。しかし今はシンプルに、まずは隣の友達や町で会ったお年寄りに優しくしようとか、そんな根本的な福祉の心が育つきっかけになれば嬉しいと思うようになりましたね。
参加者K こうやって続けていけば、出雲市内にもっともっと優しい福祉の輪が広がっていく気がしますね!

6特別養護老人ホーム なのはな園 KRさん

一人の百歩より百人の一歩で地域全体の福祉を底上げしていく

座談会を振り返って、見えてきた今後の展望とは?

参加者KM

今日はとても勉強になりました。この基礎的講座の内容は、普段から職員向けに研修としてやりたいくらいレベルが高いものですよね。

参加者H 本当にその通りで、実際、講座の一部を研修で話す時があります。同じ介護福祉士でも、学校に通った人もいれば異業種から転身して働きながら資格を取る人もいて、それぞれキャリアが違うので、福祉の基礎を深く学び直す機会は少ないですよね。今後は、お互いの事業所へ講座をしに行くという交流もあってもいいかもしれませんね!
参加者KR それはいいですね!この講座は、福祉の大切な要素が全て詰まった出雲オリジナルの完全版です。この事業に参画できたことを誇りに思いますね。Kさんはいかがでしたか?
参加者K 皆さんの取り組み方を知って、とても参考になりました。特にYさんが言われた感想は嬉しかったですね。今後、同じような気持ちを持つ人が増えたら、さらに嬉しいですね!
参加者N 福祉は社会全体で考えていくべき話で、今後どうやって広げていくかが大きな課題ですが、今回、皆さんのお話を聴けたことで、この講座の可能性に改めて気づくことが出来ました。普段、現場にいるだけではわからなかったと思います。ありがとうございました。
参加者H

皆さんありがとうございました。
やっぱり他の事業所さんたちと集まって、顔を見合わせながら喋るって良いですね!
今日は基礎的講座についての話でしたが、今後もぜひ色々なテーマについて気軽に集まって話せる場をつくれるといいですね。

参加者KR

皆さんの熱い想いが聴けて、とても良かったです。これからもっと地域全体の福祉を底上げしていきたいですね。そのためには、なかなか一法人だけが頑張っても難しい。一人の百歩より百人の一歩が大事だと思うので、ぜひ今後もみんなで一丸となって盛り上げていきましょう!今日はありがとうございました。

今回の座談会には、とにかく日頃から熱い想いを持った、お話好きのメンバーが集まったということで終始賑やか。時折、思わぬ脱線話が盛り上がってしまうほどだった。

「いつか、この講座を受けた子どもたちが、出雲の福祉を最前線で支える日が来るかもしれない」そんな明るい未来に想いを馳せる6名は、これからも志を共にする仲間と次世代へ福祉のバトンを繋いでいくことだろう。

■関連リンク

介護老人保健施設 寿生苑(医療法人 壽生会)

特別養護老人ホーム 清流園(社会福祉法人 静和会)

特別養護老人ホーム もくもく苑(社会福祉法人 おおつか福祉会)

特別養護老人ホーム なのはな園(社会福祉法人 島根ライトハウス)

老人保健施設 まんだ(社会福祉法人 ほのぼの会)

特別養護老人ホーム みせんの里(社会福祉法人 きづき会)