1今回お話をお聞きした特別養護老人ホーム「サン・スマイル」の施設長のIさん 主任のMさん(写真左から )

介護業界への導入が進むICTの波

近年、介護業界にもICTの導入が進み、業務の効率化や職員の負担軽減、利用者さんへのサービスの質の向上が期待されています。
ICTによって、介護現場はこの先どのように変わっていくのでしょうか?
今回は、2021年に移転新築した特別養護老人ホーム「サン・スマイル」を訪問。
移転に伴いICTを導入したことで、介護業務にどのような変化があったのか、お話を伺いました。

インタビュア 施設にICTを導入したきっかけを教えてください。
2 私たちの法人では、障がい者支援施設も運営しており、そこでは約20年前から介護ソフトを導入していました。
一方、当施設では記録や連絡などすべて手書きで行っていましたので、2021年の移転新築に伴い、介護ソフトを導入しました。
インタビュア 介護ソフトをどのように活用しておられますか?
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利用者さんの体調や要望、職員が気になった点など、日々の状態をパソコンに記録しています。
そして職員全員が共有することで、適切なケアが提供できるようにしています。
手書きのノートとは異なり、複数のデバイスから確認できるうえ、利用者さん別に月ごとのデータを閲覧したり、必要な情報を瞬時に検索できたりと、管理や閲覧が格段に楽になりました。

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手書きの場合、業務後にまとめて記録するだけで10〜20分かかってしまいますが、システムを導入したことで残業時間の削減にもつながりました。

また、出雲市が提供する医療・介護情報共有ネットワーク「ルピナスネット出雲」も活用を始めています。
将来的には医療機関との情報共有がスムーズに行えるようになることを期待しています。

インタビュア

利用者さんの情報管理にとても役立っているんですね。
他にはどういった活用法がありますか?

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職員の勤怠管理もシステム化し、出退勤の記録や勤怠集計が簡単になりました。
時間外労働など勤務状況を正確に把握できるので、例えば残業が多い職員の原因を分析し、早い段階で改善策を検討することもできます。

また、交代制勤務など複雑な勤務体系のため、今年から勤務表作成ソフトも導入しました。
以前はシフト作成を自宅に持ち帰って2〜3日かけてつくることもありましたが、その負担が軽減されて、精神的なストレスも減りました。

システムを導入したことで、職員全体が仕事とプライベートの時間をより明確に区別できるようになったと感じています。

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インタビュア

“見守りベッド”も導入しておられますね。

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はい、センサーをベッドに設置することで、利用者さんの呼吸や脈拍、離床などを24時間検知しています。
現在、当施設では12部屋に設置していて、施設中央のスタッフ事務所のパソコンに表示され、異常が検知されるとアラームで知らせてくれます。

もちろん、センサーは目安の一つなので、画面上に異常がなくても定期的にお部屋を訪問しています。

インタビュア

サン・スマイルさんでは、そうしたICT以外にも、走行式電動介護リフトなど積極的に利用されていますね。

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以前は移乗シートを使って「イチニのサン!」と掛け声をしながら移乗を行っていましたが、職員の腰への負担が大きく、腰痛は介護職の大きな悩みでした。
でもリフトを導入したことで腰痛予防につながるのでとても助かっています。
特に身体の大きな利用者さんの場合、これまでは職員2名で対応していたため、待機時間が発生することもありましたが、リフトなら基本的に職員1名で移乗できるため、業務の効率化にもつながっています。

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職員が腰を痛めると、利用者さんを支えきれず転倒事故につながる可能性があり、最悪の場合、介護職を続けられなくなることもあります。
そこで、職員の身体を守るため、施設の移転時にリフトを導入しました。

やはり、職員が元気で良い仕事ができることが、結果的に利用者さんの満足度向上にもつながると思っています。

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例えば力のある男性職員であれば、手作業の方が手っ取り早いと感じることもありますが、中には力技で移乗されることを「怖い」と感じる利用者さんもおられます。
リフトなら「今から動かしますね」と声掛けしながら、ゆっくり安心して移乗してもらえるという利点もあります。

インタビュア

ICTや走行式電動介護リフトなどを導入されたことで、職員の定着率に変化を感じられますか?

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そうですね、施設の移転に伴って新たに多くの職員を迎え、現在はデイサービスを含め53名が働いていますが、体調不良など特別な理由を除けばこれまでに退職もなく、安定した職場環境が維持されていると思います。

ICTの導入に関しても、若い職員を中心に皆さん抵抗なくスムーズに対応してくれています。

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話にも登場したICTを活用した『見守りベッド』。
利用者さんのベッドにはマットレスの下に設置されたセンサーが脈拍をはじめとする健康状態のチェックを遠隔で行えます。

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ストレッチャーごと入浴が可能なお風呂。
介護職員の体の負担を大幅に削減できています。

インタビュア

今後も運用面で改善していきたいと思っていることはありますか?

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良いものがあれば積極的に取り入れたいと考えており、インターネットで最新情報をチェックしたり、展示会に足を運んだりしています。
気になるものがあればすぐに業者さんへ連絡し、デモ機を借りて試すようにしています。
最新の技術や設備を把握することで、より良い環境を提供できると考えています。

インタビュア

デイサービスでも、シアタールームや麻雀、パチンコなど革新的なサービスを取り入れておられますね。

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地域に根ざした施設を目指し、利用者さんに喜んでもらえるサービスを常に考えています。
その一環として、アミューズメント要素も積極的に導入しました。
結果的に「麻雀をやりに行きたいな」「シアタールームがあるから行こう」など、デイサービスを利用するきっかけになっている方もおられるようで、取り入れて良かったと感じています。

職員みんなで「良いことは取り入れよう」という意識を持ち、業務に必要なものや改善点について常に話し合うようにしています。

インタビュア

今後の目標や展望を教えてください。

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コロナやインフルエンザの感染予防のため、外部との交流が制限されているのが現状です。
今後は状況を見ながら、利用者さんがもっと外出し、さまざまな体験ができるような、開かれた施設を目指していきたいと考えています。

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設備面に関しても、今後もアンテナを張りながら、良いものはどんどん取り入れていく姿勢で、職員の負担を軽減していきたいと考えています。

当施設では「食生活委員会」「ノーリフト委員会」「生産性向上委員会」などを設置し、常に施設運営を見直すようにしています。
これからも委員会をしっかり機能させ、利用者さんと職員の双方にとって充実した施設を目指していきます。

介護職は「大変そう」というイメージを持たれがちですが、ICTや介護ロボットを導入した現場では、そのような印象はなく、職員の皆さんがいきいきと働いている様子が見られました。

職員さんの身体的・精神的な負担が軽減されることで、利用者さんへのケアやサービスの質も向上し、良い循環が生まれていると感じました。

今回の取材先

社会福祉法人 恵寿会