VOL.03 『特別養護老人ホーム天神』のいいとこ発見!

外観

出雲市小山町にある特別養護老人ホーム天神は、ユニットケア型の介護施設で「普通の暮らしの継続」を理念に掲げ、「あなたらしさを支えます」というキャッチフレーズのもと、地域との繋がりや季節感を大切にしながら、入居者一人ひとりに寄り添った支援を心がけている。

今回こちらを訪れたのは、小規模ホーム・グループホームもくれんの介護支援専門員YさんとFさん。
施設を見学し、ユニットケアならではのメリットや職員の関わり方、またICT機器の導入による入居者の方と職員に負担の少ない介護の実践などについて、施設長のMさんと生活支援課長のNさん、主任生活相談員のNさんにお話を伺った。

【今回の出演者】
天神 施設長 Mさん
天神 生活支援課長 Nさん
天神 主任 Nさん
もくれん Fさん
もくれん Yさん

それでは『特別養護老人ホーム天神』のいいとこ発見!

天神の中を案内

室内見学

トイレ見学

座談会の様子

個人の尊厳を守って、居心地の良い空間づくり

2 施設の中は6つのユニット(1つは短期入所)に分かれ、各ユニットに10名が入居されています。
ユニットは家という感覚で、それぞれに玄関があり、中央にある共同生活スペースの居間とキッチンを囲う形で個室が配置されていて、入居者の皆さんが「普通の暮らしを継続」できるよう支援をしています。
5 想像していたイメージと違って、綺麗で和やかな雰囲気に驚きました。
木がふんだんに使われていて、現代風な和の空間に温かみを感じますね。
2 ここに来られると、皆さん驚かれるんですよ!
特別養護老人ホームにあまり良いイメージを持っていない方も多いので、そう言って頂き嬉しいです。
Fさん どこを見ても、お部屋のディスプレイが素敵ですね!
2 ありがとうございます。
部屋の造りは同じでも、しつらえが違うと雰囲気も変わってそれぞれ個性が出ていますよね。
Nさん 認知症の方も玄関の雰囲気で自分の家だとわかるようで、皆さんユニットの外に出られても間違えずに帰ってこられるんですよ。
2 見て頂くとわかりますが、部屋のしつらえは落ち着いた雰囲気で大人目線を意識し、四季折々の日本画など趣のある本物志向の物を飾っています。
Nさん

設えもそうですが、日常でも心身の状態に関わらず、個人の意思に寄り添って尊厳を守ることを大切にしています。
おむつは目隠しのバッグに入れて持ち運ぶなど、不快な思いをされないように気をつけています。

Fさん

プライバシーや尊厳を守るために、細かな配慮が大切ですね。

2

そうですね、相手の立場になって考えることが大切だと思います。
普段の会話でも決して上からものを言ったりせず、同じ目線で接するよう心がけています。

室内

室内

「普通の暮らしの継続」を支援、何気ない日常を一緒に楽しむ

5

ユニットケアならではの良さや、日々の関わり方を教えて頂けますか?

 

Nさん

ユニットケアは、共同生活ですがプライバシーは守りながら、一人ひとりの自由な生活リズムに合わせた支援ができます。
職員は固定配置なので、顔なじみという安心感があり、好みや性格など個性を把握した上で支援ができる点もユニットケアならではの良さです。
必要な介助はしますが、家と同じように好きな事をして過ごせます。
ユニット間は、近所へ遊びに行く感覚で自由に交流をされていますよ。

5

とても良いですね。皆さん自然に寛いでおられて、本当に我が家みたいですね。

2

施設内には「地域交流スペース」を設けています。
今は感染予防で貸出を中止していますが、以前は地域の方に無料開放し、自治会行事やカルチャースクールなど自由に使われていました。
入居者さんも興味のあるイベントに参加して、まるで公民館が施設の中にある感覚ですね(笑)。
地域交流の場を設けたことで、狙い通り理想的な地域との繋がりができました。
移動販売車が来た時は、ここでお買い物も楽しめるんですよ。

Fさん

凄く素敵な考えですね!
ユニットが家で、隣がご近所、施設の中に公民館があって、お買い物も出来て(笑)。
なんだか一つの町のようで、本当に地域と一体感がありますね!


Mさん

暮らしの中で季節を感じることも大切にしていて、夏は流しそうめんや花火を楽しみます。
畑で収穫した野菜で作るカレーライスやサラダは格別の美味しさです。
今年はスイカとメロンに挑戦しましたが、予想以上に大きく育ってみんな大喜びでした。

Nさん

何気ない日常で喜ばれる姿や笑顔を見ると、職員も嬉しくてやりがいを感じますし、モチベーションアップにも繋がっています。

食堂

食の楽しみを大切に、冷凍保存でもしもの時も万全対策

Mさん 今日は施設でお出ししている食事をご用意しました。
管理栄養士のHからご説明させていただきます。

Hさん
普通食と、嚥下や咀嚼が弱い方向けのソフト食をご用意しました。
どうぞお召し上がりください。

食事

(写真右)今日の献立:ご飯/のっぺい汁/魚(カラスガレイ)/さつまいも煮/酢の物(白菜・赤板・錦糸卵・わかめ)/煮りんご。
酢の物は食材ごとにミキサーにかけ、層に分けて固めている。一番下に白菜、わかめ、ピンクは赤板、上の黄色いお花は錦糸卵。食べやすいようにとろみがついている。
(写真左)嚥下や咀嚼が弱い方向けのソフト食。

Yさん
Fさん

どれも美味しいです!
同じ食材なのに、形が全然違ってびっくりしました。
本当にどちらも同じ献立なんですか?

Hさん

同じ位置にあるものがそれぞれソフト食に展開したもので、見た目も美しく素材の味を活かすよう工夫しています。
各ユニットの職員と相談して、その日の体調に合わせた形状で用意します。
このように個別で対応できる所は、ユニットケアのメリットだと思います。

2

なかには元気の秘訣に「お酒とさきいか」を楽しみにされている方も(笑)。
合言葉に「あなたらしさを支えます」とあるように、一人ひとりに合わせた食の楽しみ方を支援しています。
また、ここでは災害や非常事態に備えて、調理した食事を冷凍保存してストックしているんですよ。

Hさん

実はこちらは3日前につくったものを再加熱したものなんです。
調理師たちは、いつも3日先の食事を作っています。

Yさん
Fさん

え~~!
どういうことか詳しく教えてください。

Hさん

災害時は電気が止まると調理ができず、ミキサーも使えません。
こちらでは最新の調理機器を導入していて、最低でも3日間は調理ができなくてもソフト食を提供できるようにしています。

2

災害訓練や炊き出し訓練の経験を活かして準備しています。
この施設は、福祉避難所にもなっているので、日頃から万全の対策を考えています。
また、もしも職員が新型コロナウィルスに感染しても、冷凍食をストックしておけば食事の提供には困りません。
様々な非常事態に備えることが、業務の効率化にも役立っています。

Yさん

すごいですね!
同時進行でいろんなことを考えておられるんですね。

福祉用具の充実やICT機器の導入など科学的介護の推進に取り組む

Yさん

働きやすい環境づくりや業務改善として取り組まれていることはありますか?

2

私たちは、長年「抱えない介護」を目標にしてきました。
腰痛の悩みは付きものですが、現在、各ユニットに1台ずつ、浴室なども合わせて計16台の介護用リフターを常設し、職員にも入居者さんにも負担の少ない介護を実践しています。
女性職員でも一人で楽に男性を介助できるのでとても重宝しています。

Nさん

操作は簡単ですが、職員の操作技術を一律に保つため、独自の認定制度を設けています。
作業療法士とユニットリーダーが入念に確認し、安全に正しく使えるよう細かく指導しています。
ちゃんと補講もありますよ(笑)。

Fさん

それは利用者さんも安心ですね。
こちらではICT機器を導入されていると伺いましたが、どんなものを使っておられますか?

Nさん

見守り改善のため3年前から「眠りスキャン」という機器を導入しています。
以前は、個室の入居者さんの睡眠状況を確認しづらく、排泄ケアのタイミングが計りにくいと感じていました。

2

様子を見に行くことで眠りを妨げてしまうこともあったので「眠りスキャン」の導入は画期的でした。

Yさん

具体的な使用方法を教えて頂けますか?

Nさん

「眠りスキャン」を設置することで、別室のモニターで睡眠状況を確認できます。
心拍数や呼吸数など、バイタルもわかるので、看取りの際も常に状態を確認できますし、新規入所の方は睡眠データをとることで生活リズムの把握にも役立っています。
離床するとスマホに通知され、センサーの役割も果たす優れものです。

Yさん

それはとても便利ですね!

Nさん

今は覚醒のタイミングで排泄ケアができるので、入居者さんにストレスがかからず喜ばれています。
排泄時のトラブルが改善されたケースもあり、現場はとても助かっています。

Yさん

きちんと改善を実証されているんですね!

2

高齢者はどうしても夜間の排泄が多くなります。
そこにしっかりアセスメントできれば快適な睡眠がとれるので、1日の生活リズムが整い、普通の暮らしが継続できることに繋がるんです。

Nさん

他にも記録システムを導入したことで、朝礼を無くしました。
業務や介護記録など、各自必要な情報をパソコンで確認しています。
今後は、手が離せない状況でも、スムーズに連絡できる「インカム」の導入を検討しています。

Yさん

今は便利な機器がたくさんあるので、もっと勉強して業務の効率化に向けパワーアップしたいと思います。

ベッド

不安は早期解決、充実した人材育成制度でスキルアップをサポート

Yさん

職員のスキルアップについては、どのようなサポートをされていますか?

Nさん

新規採用者の育成に、本部の人材育成室と連携し「OJT」を導入しています。
正規・非正規を問わず、全ての職員を対象に指導担当者がマンツーマンで指導に当たり、実践を通して必要なスキルや知識を身につけられるようサポートしています。
各ユニットで1年ごとに目標設定を行い、3ヶ月に1回面談を行いながら、一緒に目標達成を目指します。

Yさん

例えばどんなことを目標にされていますか?

Nさん

スキルアップに繋がるよう「積極的にユニット活動に取り組む」とか「資格を取得したい」など、それぞれ目標は自由ですが、指導担当者は施設全体の事業計画に沿うよう調整し、具体的な取組をアドバイスします。

Yさん

確かに事業計画を読み解いて、目標設定を結びつけるのは難しいかもしれませんね。
職員が取り組みやすいように導くことも大切ですね。

2

資格取得については、「介護福祉士実務者研修」や「喀痰吸引等研修」を法人内で受けられる体制が整っていて、職員の費用負担も不要です。
これが人材育成室のある利点で、講師もスペシャリストが揃っています!
職員のスキルアップが施設サービスの質の向上に繋がります。
喀痰吸引は、全員が対処できるので、重度の方の看取り希望にも99%お応えできています。

Fさん

最期までここで暮らして看取ってもらえるのは、ご家族もご本人も幸せの形の一つかなと思いました。

Nさん

さらに、1年目の職員には「OJTノート」という交換ノートを用いて、指導担当者が疑問や不安など悩みを引出し、課題を早期解決できる体制をつくっています。

Yさん

Nさんも使われていましたか?
実際にどんなやり取りをされていたのか聞かせてください。

22

10年前くらいに始まった取組です。
ちょうど自分が入った頃で、慣れない現場に不安だった時、ノートのやり取りがあったおかげで安心できたことを覚えています。

2

私も目を通すのですが、新卒の職員たちの純真な想いに触れて涙が出るんですよ。
看取りに初めて立ち会った辛さや、次の日何事もなかったように普段の仕事が始まって戸惑う気持ちを素直に綴った方もいました。
職員のこういった不安に寄り添うためにも、気軽に相談できる環境づくりが大切だと思っています。

Fさん

業務中に先輩の手を止めるのは気を遣うので、交換ノートで相談できるのは良いですね。
思ったことを書くだけでも気持ちの整理になるし、何より返事があると嬉しいです。

 

Nさん

内容によっては多職種に関係することもあります。
そういった課題解決にみんなで取り組むことが、実は新人サポートだけでなく指導側の育成にも役立っているんです。
自然と、両者が共に成長できるということが「OJT」導入の最大のメリットだと感じています。

2

そうですね。
「OJT」の導入は、職員の離職防止にも繋がっていると思っています。

Fさん

大きな法人組織でありながら、ユニットがしっかり自立して人材育成や目標達成に向け取り組んでおられて凄いと思います。
また、資格取得のバックアップは大きな法人組織だからこその利点ですし、そのことがきちんと介護ケアの充実に繋がっているんですね。

OJTノート(マスキング)

座談会で話題に上がった『OJTノート』

介護現場の温かさや、素晴らしい魅力をたくさんの人に伝えたい!

Fさん お話を伺い、ユニット型の良さや具体的な取り組みに驚きました。
職員さんが、お互いや入居者さんのことを大事に想っておられて、施設全体が温かさに包まれていますね。
Yさん 本当に素敵な場所で、「自分の親がもしも施設に入るなら、ここが良い!」と感じました。
単純ですが、本当にこれがシンプルな第一印象でした! (笑)。
2 うわぁ~!ありがとうございます。
「家族が入っても良い施設」というのが、私たちの一番大きな目標なので、嬉しいです。
Yさん 実は今まで特別養護老人ホームって、「閉鎖的で自由が無い」というイメージがありました。
でも、実際は全く違って、その人らしい生活が十分に維持できる場所だと分かりました。
2 時代が変わって今の介護現場は、昔に比べて凄く進化しています。
Yさん そうですね。
ぜひこの素晴らしさを多くの人に知ってもらいたいですね。
2 実は、数年前に公民館活動として、地域の方が見学ツアーで来られたのですが、皆さん「特養ってこんな感じなんだ~!」って、イメージと違ったようでびっくりされていました(笑)。
Nさん このような福祉教育が、地域の取組として定期的に実施されると良いですよね。
身近に感じてもらい、もっと介護に対して前向きなイメージが拡がれば嬉しいですね。
Yさん 本当にそうですね!
もっと目に見える形で広くアピールしていくことが必要だと思いました。
これからも、ぜひお互いに情報交換をして連携しながら、一緒に頑張っていけたらと思います。
2

今回こうやって、施設形態が違う他事業所のお二人と交流の機会が持てたことを、とても嬉しく思います。

Yさん
Fさん

本日はとても貴重なお話をありがとうございました!

座談会の様子2

座談会を終えて

『特別養護老人ホーム天神』のいいとこ発見!いかがだったでしょうか?
ユニットケアの特長や職員の温かさに感銘を受けたようで「今までの特養へのマイナスイメージが払拭された!」と口を揃えるお二人。
今回の対談は、改めて自分たちが目指す介護実現の使命感を再確認する機会になったのではないでしょうか。

■関連リンク

社会福祉法人 島根県社会福祉事業団

株式会社 もくれん