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有限会社 えるだーにて(左)職員Tさん(右)管理者Kさん

在宅生活を最も身近で支える、訪問介護の重要性を見つめる

「住み慣れた自宅で出来る限り自立した日常生活を送りたい」と願う高齢者や障がいのある人にとって、訪問介護サービスは最も重要なサービスである。

しかし、近年は訪問介護員の人材不足や高齢化が全国的にも問題となっている。
出雲市においても同様の課題を抱えており、高齢化が進み訪問介護ニーズの高まりが見込まれるなか、十分なサービスを提供し続けるための訪問介護員の確保が困難となることを懸念している。

そんな中、市内事業所で子育てをしながら働く訪問介護員がいることを聞き、今回は、出雲市駅南町にある訪問介護事業所「有限会社 えるだー」を訪問した。


施設を運営する有限会社えるだーの取締役であり管理者のKさんと子育てをしながら働く職員のTさんに、訪問介護の重要性や働く魅力、また課題に対する取り組みやこれからの目標についてお話を伺った。

医療現場から見えた在宅サポートの重要性

まずは、Kさんに立ち上げの経緯や訪問介護に対する思いを伺った。
Kさんが訪問介護に着目したきっかけは平成2年まで遡る。
当時、医療機関で働いていたKさんは入院患者が退院後しばらくすると再入院してくるケースが多いことに驚いたそう。

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私が医療現場で感じたのは在宅サポートの重要性です。

例えば病気を患い身体が不自由になった場合、退院後も身体介護や継続的なリハビリが必要です。
でも、実際患者さんや家族を近くで見ていると、心身ともに疲弊している家庭が多く、リハビリなどの身体ケアまではなかなか手が回らない様子でした。

そこで「もっと退院後の介護をサポートできれば在宅での生活の継続に繋がるのでは?」と思ったのをきっかけに自分がその役割を担えないかと考えるようになりました。

当時はまだ、介護は家族がするものという認識が強い時代。
今のように多様な福祉サービスも整っておらず、ヘルパーは身の回りの家事援助が主だったそう。

そんな中、新たな福祉事業の動きとして、島根県でも身体介護の専門的な知識を備えた訪問介護員の養成研修が始まり、Kさんは介護職へ転身。

より地域に根付いた訪問介護サービスを届けようと、平成16年に訪問介護事業所「有限会社 えるだー」(以下、えるだー)を開設した。

その後、さらなる在宅介護の充実を図るため平成18年に小規模多機能型居宅介護セカンド・サロンえるだーを立ち上げ、現在に至るまで献身的に在宅サポートを行ってきた。

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有限会社 えるだー 管理者Kさん

利用者の思いに寄り添い、心と心が通じ合ったケアを目指す

長年、訪問介護に従事してきたKさん。
これまでを振り返りながら、利用者との関わりで大切にしてきたことや、現場で感じるやりがいについて伺った。

icn01 訪問介護を始めてから、これまで数々の利用者様や家族と関わらせていただきました。
その中で強く印象に残っているのが、訪問先で言われた「今まで家でお風呂に入れるなんて考えられなかった。」という一言です。
当時はデイサービスも少なく、自宅での入浴は負担が大きかったのでとても喜ばれたことを覚えています。

訪問介護は、炊事、洗濯、掃除といった家事援助から食事、排泄、入浴介助といった身体介護までを行う。
しかし、それらは決して一律な単純作業ではなく、「敬意をもって接し、深い信頼関係を構築できなければ最善のケアはできない。」とKさんは話す。

icn01 えるだーでは、一人ひとりの思いに寄り添い丁寧なコミュニケーションを重ね、心が通じ合う関わりを大切にしています。
利用者様の身体状態や家庭の状況は様々ですが、何より大切なのは本人主体であること。
ここは強く意識して、常に尊厳を守りながら、利用者様や家族にとって最善のケアができるよう心がけています。
「あなたが来てくれるのを待っとるよ。」と心待ちにしてくださる声を多くいただき、やはり訪問介護は在宅に欠かせない存在であることを実感しています。

円満な家族関係を繋ぐ架け橋のような存在

家族介護によって身体的な負担だけでなく精神的なストレスを抱える家庭も少なくない中、訪問介護員の存在は家族関係を円満にする緩衝材の役割も果たしているという。

icn01 皆さん懸命に介護をされていますが、親族だからと安心して気を許せる反面、どうしても本音が出やすく気持ちのすれ違いが生じることもあります。
なので、訪問先では介護ケアと共に家族それぞれの心情にも寄り添うことを大切にしています。

「家族間のコミュニケーションがとりやすくなった」と喜ばれることもあるという。
普段の何気ない会話から心配事の相談まで、それぞれの思いを親身になって受け止め家族を繋ぐKさんのような訪問介護員は、架け橋のような存在といえる。

icn01 長いお付き合いを通して信頼関係を築いてきました。
何でも言える気心の知れた存在として受け入れてくださり、身の回りのお世話を委ねてもらえることは、とても光栄ですし大きなやりがいを感じています。
今後も利用者様や家族の身近な理解者として、私たちだからこそできる関わり方を大切にし、皆さまのお役に立てるよう努めてまいります。

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有限会社 えるだー 職員Tさん

柔軟な働き方で仕事と家庭を両立できる職場環境

えるだーでは、利用者に対して専属の担当者は決めず、職員全体でローテーションを組み支援を行っている。
様々な視点をもって情報共有することで、支援の向上が図れるほか、職員の急な休みにも対応でき、常に安定したサービス提供が可能だという。
現在、職員はKさんを含めて6名、いずれも女性で子育て中の職員も多い。
そのため、このシステムは仕事と家庭を両立する職員たちにとっても利点が多く、ライフステージに応じた働きやすい職場環境により人材確保や就労定着にも繋がっているのだとか。

訪問介護員として活躍するTさんも中学生2人の子どもを持つ母親。
以前は介護老人保健施設で働いていたが、子どもの小学校入学を機に働き方を見直したという。
そんなTさんに入社のきっかけや現在の職場環境について伺った。

icn02 子どもが小さいうちは保育園に預け、延長保育も利用しながら可能な勤務形態で働いていました。
ただ、小学生になれば学童保育となり預かってもらえる時間が短くなることや、3交代制の職場で夜勤の要請があったため、このまま子育てをしながらの継続は難しいと思い転職することにしました。

そして、希望条件に合う職場を探していたところ、えるだーにたどり着いたという。

icn02 夜勤や日曜日の出勤が難しいことや、子どもの送迎に間に合う勤務形態で働けないか相談したところ、快く迎え入れてくださいました。
介護の仕事でこんなに融通が利く職場があるとは思わなかったのでとても驚きました!

「自身も周りの協力に支えられながら子育てをしてきた」とKさん。
子育てに奮闘しながら働く職員たちの気持ちが痛いほどわかるという。

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急な発熱や通院、保育園や学校行事への参加など、子育てをしながら働くということはとても大変です。
なので、出来る限り希望に沿った勤務形態に対応しています。
私たちの時代とは社会の在り方や考え方も違うので、若い世代の価値観も尊重しながら、みんなが協力し合い働きやすい職場づくりを大切にしています。

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子どもの体調不良で急に抜けることもあり、その度に皆さんの温かさに救われてきました。
今は中学生になって手がかかることも減りましたが、困った時にはお互いカバーし合える体制が整っているので、安心して働き続けることができています。

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訪問介護は時間の調整がしやすく、柔軟なスケジュールを組めるのが特長です。
なので、子育てに限らずどんな人でも自分に合った働き方が叶いやすい職場環境だと思います。

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安心の研修サポートでスキルアップやキャリア形成を応援

さらに、えるだーでは職員のスキルアップ研修やキャリア形成など人材育成にも力を入れている。
日本ホームヘルパー協会に加盟しており、Kさんは協会の副会長(島根県ホームヘルパー協会の会長)を務めているということで具体的な取り組みについて伺った。

icn01 協会からは、主に介護職員の資質、知識や技術の向上に繋がる様々な情報を得ることができます。
厚生労働省や医療機関、関係職種との連携によって全国の最新情報をいち早く入手できるほか、新規福祉プロジェクトへの参画や協会が実施する豊富な研修にも参加できるので職員が自己研磨しやすい環境が整っています。

また、新たな人材確保にも積極的に取り組んでおり、介護未経験者も受け入れ可能だという。
訪問介護員として働くには介護職員初任者研修を受ける必要があるが、介護の入門編に位置する資格で約3~4か月と比較的短期間で取得できるという。

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介護に少しでも興味があり、人を大事に思える方であれば、どなたでも大歓迎です。
資格取得も全面的にサポートしていて、併設する小規模多機能型居宅介護施設で勤務しながら養成機関に通い研修を受けることができます。

実際に介護現場で利用者と関わりながら実践的に学べるというのが最大のメリットだそう。
「段階的にスキルを身に付けることができるので、気構えずに挑戦して欲しい」と呼びかける。

また、Kさんは次世代の担い手不足による福祉サービスの縮小を危惧しており、訪問介護員の裾野を広げるために、講師として教育現場へ出向き介護職を目指す若手の人材育成にも励んでいる。

「訪問介護は介護の基本中の基本」と強調するKさんは、さらに訪問介護の重要性を訴える。

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人の生活の延長に、暮らしの中に介護はあります。
まずは訪問介護が介護の最も根底にあることを理解した上で学びを深めて欲しいですね。
そして、順応な介護スキルを身に付けるためにも在宅のリアルな現場で経験を積むことを勧めています。
訪問介護を通して社会性も養うことができ、その人の人生にとっても生涯役立つスキルが身に付くはずです。

実際に働いて感じる訪問介護の魅力とは?

続いて、えるだーに勤務し今年で9年目となるTさんに、訪問介護員として働くなかで感じる仕事の魅力について伺った。

icn02 やはり一番は利用者様の生活に深く関わりながら、マンツーマンで支援できるところが訪問介護ならではの魅力だと思います。
施設では一日のスケジュールに沿って一同に活動することが多く、なかなか一人ひとりの利用者様とじっくり関わることはできませんでした。
その点、訪問介護はその方に集中して意識を注ぐことができます。
以前とは違った気づきもあり、広い視点をもって介護に向き合えるようになりました。

最初は、支援スタイルの変化に戸惑うことも多く不安に思う時期もあったそうだが、徐々に慣れてくると自分なりに考えながら動けるようになってきたという。

そんなTさんに利用者との関わりで気を付けていることや大切にしていることを伺った。

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身体状態や障がいの程度によって可能なコミュニケーションの方法が違います。
話すことが難しい方は、表情や目の動きからも気持ちを察することができるので、それらをきちんと汲み取れるよう丁寧に話しかけながら反応を確認します。

皆さんの困りごとや痛みが少しでも楽になって気分が良くなるよう、介助だけでなく心のケアまでできる関わり方を心がけています。
皆さんとの出会いや今この瞬間に関わらせてもらっていることは奇跡で、かけがえのない時間です。
後悔のないよう大切に過ごしていきたいと思います。

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訪問介護にかける熱い想いを次世代へ受け継いでいく

最後に、KさんとTさんに今後の目標を語っていただいた。

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偉大な先輩であり母のような存在でもあるKさんは、皆の心の拠り所です。
今後は、私もKさんのように慕われる訪問介護員を目指し、もっと皆さんに安心感を与えられる存在になりたいですね。
そのためには知識やスキルを身に付けることもですが、会話力を上げることも目標にしています。

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Tさんは以前と比べたら確実に成長しています。
介護スキルはもちろんですが、様々な事態にも臨機応変に対応できる訪問介護員としての資質も備わってきたと思います。
ただ、真面目で責任感が強いので、つい一生懸命やりすぎてしまうことも。
あまり神経質になりすぎて自分を追い込まないよう適度に気持ちを切り替えて欲しいですね。
そして、今後はもっと高みを目指して色々な資格取得に挑戦して欲しいです。
介護支援専門員の資格もあれば、さらに支援の幅が広がりますよ。

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資格取得も頑張りたいですね。
これからも精進しますので熱いご指導よろしくお願いします!

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Tさんたち若い世代に期待を込めて、今後の活躍を強く願っています。
えるだーを立ち上げてから今日に至るまで、いつも利用者の皆さまの温かい声に支えられてきました。
施設名にもなっている「えるだー(elder)」とは年上という意味で、たくさんの知恵や教えをいただいた年長者の皆さんを敬い、謙虚な姿勢で笑顔と安心感をお返ししたいという想いを込めて名付けました。
誰のための介護かを見失わないよう、これからも初心を忘れず、地域の方々に求められる訪問介護サービスの形を追求し続けてまいります。

今回の座談会では、日々の現場で利用者やその家族に向き合う訪問介護員のリアルな声を聴くことができた。

いつ、自分や大切な家族に介護が必要になるかわからない。
大切な人が住み慣れた自宅で出来る限り自立した日常生活を送るためには、訪問介護員の需要は増すばかり。

今回のインタビューで柔軟な働き方ができ、仕事と家庭の両立を実現できる訪問介護員の仕事に魅力を感じた。

えるだーのようにスキルアップもできる職場環境が増えることを願う。

訪問介護の第一線で活躍し、在宅サポートを軸に介護職の資質向上や福祉の進歩に尽力してきたKさん。
そして、その背中をTさんが追う。
これからも、えるだーの訪問介護にかける熱意はしっかり次の世代へ受け継がれていくことだろう。

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