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現在、介護業界の人材不足課題解消にICTを活用した業務効率化が重要視されています。
出雲市神門町「グループホームかんどの里」では平成29年にICTを導入し、先駆的な施設として成果をあげています。
3年経過した今、当時を振り返りながら導入の経緯や取組、現在どのような効果を感じているのかや、
見えてきたさらなる課題などについて、施設管理者の岩谷政彦さんに伺いました。
また、実際に現場で働く職員さんからもリアルな声を聞かせていただきました。

着目したのは負担の大きかった記録業務の効率化

全国的に人材不足に悩む事業所は少なくありません。
岩谷さんも“離職者を減らしたい”という想いがありました。
待遇面の改善だけでなく、業務及び精神的負担を軽くするには何をすべきか考えられたそうです。

「離職原因を考えた時に、待遇面の改善もですが、日頃のストレス解消方法や仕事と家庭とのバランスを取らないといけない事は明確でした。
国がICTの導入を進めてきた時から視野には入れていたので、何とか業務効率化を図り、職員の負担を楽にしたいとICT導入を決意しました。」
と話す岩谷さん。

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ICTの導入についてお話をお聞きした管理者の岩谷さん

実際にICT導入で何の業務効率化を図ったのでしょうか?

「当時は、利用者さんに必要な介護記録、管理日誌等を全て紙に書いて記録していました。
利用者さんの数だけ記録作業を繰り返すので、長い時は1時間以上かかる時もありましたね。
利用者さんと向き合う時間を第一に考え、ケア中は必要なチェック表だけを記録し、個人記録への転記や経過記録は後で記入する職員が多かったんです。
そのため、同じ記録を繰り返す非効率による残業が一番の負担になっていると感じ、まずは“記録業務”の効率化を図ることが先決だと思いました。」

導入にあたってどんな取組をされましたか?

「施設では20代~60代の職員が働いています。導入に対する不安があるだろうと思い、事前アンケートを実施しました。
パソコン操作・キーボードの打ち方など基本的な事柄への不安があり、全体的に新しく仕組みを変える事への抵抗感があることが分かりました。
なので、“いかに簡単で職員が受け入れやすいか”を焦点に、導入するソフトを探しました。」

県外でも導入事例が少なかった当時、山陰に代理店が無いこともあり、日帰りで県外の開発者に直接話を聞いて情報収集をした岩谷さん。

「色々なソフトがある中で、内容や使い方をこちらが理解して比較してみる必要がありました。
機能が多いものは高額で、使いこなせば全体的な業務効率化が図れると思いました。
しかし、複雑なものは定着の支障につながるので、“簡単に記録できること”に特化したものを探しました。
3社くらい比較した結果、iPad端末で使えるアプリを選びました。
インターネットとWi-Fi環境が整っていればそろえる物も少ないので、導入コストは比較的低く抑えることが出来ましたね。
iPadなのでスマホ感覚で使える事、キーボード以外にも指で文字を書くと活字変換される機能があり、入力が簡単です。
また、スマートに仕事ができるイメージもあり、若い世代の人材確保にもつながるのではと魅力を感じました。
導入にあたっては、合同説明会を開催し、デモンストレーション機能で仕組みや使い方を指導しました。
導入前に自信がないと言っていた職員も使いこなしていて、当初指導側だった自分以上に、色々な機能を見つける職員もいましたよ(笑)。」

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今回一緒にお話をお聞きした、介護福祉士の山﨑良太さんと。

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利用者様の状態を皆で情報共有するための機能が満載。画像アップ機能やグラフ表示、手書きでの入力等、現場の声が反映されてどんどん便利に進化している。

ICT導入で離職者が減少

ICT導入により、実感している効果について伺いました。

「業務が一気に効率化され、計画的な会議以外の残業時間が激減しました!」

日勤と夜勤の入れ替わりの時にある申し送りも、時間が縮まりました。
女性が多い職場なので、長時間の残業は家庭に影響します。
アンケートを実施すると“記録の負担が減り、ICT化をやって良かった”という声を聞いています。」

実際にどんなことがスムーズになったのか、アプリの便利な機能について伺いました。

「1つの端末に入力すると全てに反映され、職員が同時に情報を把握できることは助かっています。
申し送り事項を一覧表示させることで、細かく説明しなくても状況を瞬時に把握し、必要なケア内容を引き継ぐことができて、時間短縮につながりました。
また、食事量、水分量、バイタル、排泄量など、自動計算した集計結果から瞬時にグラフ化する機能はとても便利です。
さらに、利用者さん本人が医療機関を受診できず、職員が代理受診する場合、アプリの画像で医師に説明することもできます。
処方箋と連動し、薬の記録や成分、効能などもアプリで確認できるので、複数の資料を出して調べる必要がなくスムーズです。
過去の記録が確認できるので、小規模多機能施設からグループホームに入居することになった場合でも、内部で連携しているのでそのまま情報共有が可能です。
情報共有だけでなく、介護記録の保管についても紙と違いスペースを取りませんし、署名が不要、プリント用紙と印刷コストの削減、保管期間が過ぎた文書の廃棄費用も削減につながり、良いことだらけでした。」

アプリ導入直後に入社した職員(山﨑さん)に、現場の様子を伺いました。

「以前勤務していた施設は、ICTを導入しておらず記録は紙にしていました。
入社当日から操作方法を聞きすぐに業務で使用しましたが、操作する端末がiPadということもあり、特に抵抗感や難しさは感じませんでした。
個人差があるので入力作業に慣れない方もおられるでしょうが、普段スマホを使っていればスムーズに使えるようになると思います。
基本的に利用者さんと接している時間は、入力作業を避けるようにしています。状況によって、瞬時に入力が難しい場合もあり、重要なことは口頭で確認しメモして後でアプリへ入力します。
入力は非常に楽で、業務終了後、早い時は10~15分、通常でも20~30分程度で記録作業は完了し退社できます。
アプリを活用することで、効率性が上がり、働きやすい職場だと感じています。」

これらの業務改善が図れたことはICT導入の効果であり、職員から負担軽減を喜ぶ声も聞くことができ、「家庭の事情や定年退職を除き、ここ1年間の離職者が減った事に大きな成果を感じている。」と安堵する岩谷さん。

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ICT導入により業務が改善されたと話す山﨑さん

今後の展望、介護業界全体の現場に求められること

かんどの里がICTを導入して3年、徐々に仕組みが定着してきた現状を踏まえ、今後の展望について岩谷さんに伺いました。

「実はこのアプリ開発者は、実際に介護施設に勤務し、現場の仕組みを理解した上でアプリを開発されました。
そのため、現場から出た要望も理解が早く、対応が柔軟です。
今後は、現在紙ベースでやっている介護計画との連動やチェック表もアプリ内で完結できるように、新しい機能の開発を進めています。
現場の声が反映され、アプリがどんどんバージョンアップしていく事で、介護業界全体の業務効率化につながると嬉しいです。」

今後、他の事業所でもICT導入が普及していくために必要なことは、何でしょうか?

「現場サイドから、業務の不具合を改善して欲しいと声を上げるのは、難しい場合もあります。
職員がICT導入に興味や導入願望があっても、それを現実的に動かす事が出来るのは経営サイドなんです。
紙ベースでも実際はやっていけるのですが、業務量が増えていくのが現実で、いかに限られた時間の中で、業務を効率化し良質な介護ケアを提供できるか。
そこには、経営者サイドがどんな仕組みを作るか、改善すべき点を検討、判断することが必要になってくると思います。
介護の仕事に魅力を感じる人が増えれば人材不足解消につながるので、まずは働きやすい職場環境を整える事が重要です。
今は県からのICT導入に関する補助制度もあるので、活用していってもらいたいですね。
事業所ごとに若干やり方は違うかもしれませんが、施設の基本ベースは同じなので、ぜひ「かんどの里」の導入事例を参考にしていただき、ICT導入が拡がっていくことを期待しています。」

常に現場目線で利用者さんのケア向上や、職員の負担軽減・業務改善を考え、実行し続ける岩谷さん。
明るい介護の未来に想いを馳せる、にこやかな笑顔と真剣な眼差しが印象的でした。

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■関連リンク

社会福祉法人 神門福祉会

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