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介護業界の慢性的な人材不足解消に向け、多様な人材確保のすそ野が拡大していく中、出雲市では、令和2年10月に第1回目となる外国人住民対象の合同企業説明会が開催されました。

この説明会への参加を機に、出雲市馬木町の「株式会社ひまり」では令和2年11月から、三浦エリカさんと神田ロゼリさんの雇用をスタートしました。

今回は、同施設で働く日系ブラジル人のお二人に、日本で介護の道を目指したきっかけや実際に職場で感じていることなどをお伺いしました。

また、外国人の就労定着に向けた取組や、利用者さんの反応も含めたお話を「株式会社ひまり」代表取締役の藤原司子さん、管理者の加地香理さんと松村貴代美さんに伺いました。

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介護職に対する興味と働く意欲の高さに驚いた

「外国人雇用について漠然としたイメージしかなく、今後の参考になればと気軽な気持ちで参加しました。」と話す加地さん。通年、数人の入れ替わりはあるものの、当時は職員数も足りていたため採用する予定はなかったそう。そんな中、なぜ2名も採用することになったのか?当時の様子を伺いました。

「想像をはるかに上回る数の参加者にとても驚きました!ブラジル人の方を中心に80名くらい参加され、うちの事業所へは約30名以上の方が足を運んでくださいました。会場の雰囲気から介護職への関心や就労意欲の高さを感じて、“これはちょっと本腰を入れないと!”と意識が変わりましたね。

後日、面接した就職希望者の中に三浦エリカさんと神田ロゼリさんがおられました。

説明会でお会いした時、お二人の就職意欲の強さは印象に残っていて、不安もありましたが多少日本語ができたこと、ロゼリさんはブラジルで介護経験があるとわかり採用を決めました。」

株式会社ひまりは、住宅型有料老人ホーム施設内にデイサービスを併設しており、ロゼリさんは、「住宅型有料老人ホームひまり」へ、エリカさんは「デイサービスひまり」へ配属されました。

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苦戦しながらも二か国語の説明資料で万全の受け入れ準備

受け入れにあたってどんな準備をされたのでしょう?松村さんにお話を伺いました。

「まず利用者さんには事前に、ブラジルから介護と日本語の勉強をするために二人が来ることを伝えました。「そうか、そうか」と喜ばれ、楽しみに待たれる方の反応に安心しました。

簡単な日本語とローマ字が読めると聞いて、施設や仕事内容の資料、利用者さんと職員のネームプレートをポルトガル語に平仮名とローマ字を添えて準備しました。翻訳機や辞書を使い苦戦しましたが、イラストも交えながら意味が伝わるよう表現を工夫しました。

二人はとても熱心で記憶力も良く、一週間もしないうちに利用者さんと職員の名前を覚えられました。こういった前向きな姿勢には本当に感心しました。」

言葉の壁・文化の違いを乗り越えて得た物

実際に勤務がスタートし感じることや、職場で心がけていること等をお聞きしました。

「やはり感じるのは言葉の壁、コミュニケーションの難しさです。介護の専門用語を交えてスムーズに会話をすることは難しかったので、翻訳機を使い細かな内容を説明しました。複雑な内容は一度に変換できないため、文章を区切り正しく伝わるよう心掛けました。一週間は、つきっきりで指導しましたね。最初は思っていた以上に大変で、忙しい中で指導のために人手が減ってしまうことは、正直厳しい状況もありました。

さらに文化の違いを感じる場面もあります。挨拶として気軽に“ハグ”をされますが、日本と違い積極的なので、利用者さんの中には慣れないボディタッチに戸惑う方もいましたね。

とても愛情深く、利用者さんや職員に家族のように接してくれて嬉しいのですが、クリスマスプレゼントを一人ひとりに用意してくれた時は驚きました。感謝を伝えながらも、イベントとしてクリスマス行事を行う意味合いや、日本の職場では捉え方が違うことを説明しました。また、介護と医療を区別する行為にも違いがあるので、医師じゃないとできないことや、個別の疾患やリスク対処など細かなニュアンスの説明が難しいですね。

マッサージやネイルケアが得意なロゼリさんですが、現場状況によっては難しい時もあり、思うように活動をさせてあげられないことが心苦しく、もどかしさを感じています。特技を活かせることはモチベーションアップにも繋がるので、今後は方法を検討しながら取り入れていきたいですね。」

二人の気持ちを必死に受け止めながらも、現場での大変さや、もどかしさなど率直な気持ちを話してくださった松村さん。
しかし、マイナスなことばかりではありませんでした。

「二人とも明るく前向きで、とても勉強熱心。積極的な姿勢や、ジェスチャーを交え精一杯コミュニケーションを取り、熱心に働く彼女たちの姿に見習う部分も多く、刺激を受けています。施設全体に新鮮な風が吹き、職員たちにもプラスになったと思います。利用者さんの中には、お二人に会うのを楽しみに待ち、お世話を指名されるほどの人気ぶりです。今では自然に溶け込まれていますよ。」と話されました。

また、加地さんは、お二人と働くことで得た気づきについて話してくださいました。

「二人はそれぞれに性格やタイプが違います。エリカさんは完璧に仕事をこなそうと頑張りすぎる一面もあり、上手くできない自分に落ち込まれる時期もありました。今では前向きに気持ちを切り替えて頑張っておられます。

ストレスや不安のケアとして、気軽に相談できるよう声掛けをし、質問に対しては時間をかけ丁寧に答えて、目の前の問題が解決出来るよう心がけています。とても真面目で、日本全体の人材不足解消に向けた問題提起などスケールの大きな話題になることも。

彼女たちと接することで、仕事内容や利用者さんとの関わり方を見つめ直すようになり、改めて介護の仕事に向き合う時間を持つことが出来ています。悩みや想いを聴くうちに、日本語習得や介護技術・資格取得のサポートなど、外国人が日本でもっと働きやすくなる支援制度が必要だと強く感じました。」

今後、外国人を雇用した企業同士が交流をして、情報のシェア会などができれば、介護だけでなく全体的な人材不足問題の改善になるのでは?と考えているそうです。

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もっと日本語や介護を勉強したいと意欲的な二人

ここで、実際に働くお二人に日本の介護へ進むきっかけや、日々感じている想いについてお話を聞きました。結婚後に夫婦で来日し8年間、介護とは別の仕事をしていたというロゼリさん。以前ブラジルで介護の仕事をしていたこともあり、日本でも介護がしたい!と転職を決意し、出雲市の企業説明会で“ひまり”を知り就職を希望されました。

「日本語を週1回のペースで学びましたが、ブラジル人に囲まれた環境では日本語を使わなくても生活ができてしまうので、上達することは難しかったです。面接の時、この事を正直に伝えると“厳しいかもしれないが、仕事として入ってしまえば自然と日本語を学ぶ機会にもなる、まずはその環境に飛び込んでしまわないか?”と藤原さんに言っていただき、3か月のトライ期間として機会をいただきました。

最初は、言葉の壁やボディタッチによって利用者さんに驚かれることもあり、大変な事もありましたが、悩みながらも自分なりに距離を縮める工夫をしてアプローチを続けました。少し時間はかかりましたが、今では利用者さんの方から “マニキュアを塗って”と頼られることもあり嬉しく思っています。

職場の皆さんは、在日ブラジル人や異文化の違いに理解があり“ロゼリさんはロゼリさんで良い、別人になる必要はない”と励まされ、私の存在を尊重し、親切にしてくださることに感動しました。前向きに思うようになり、今では問題なく働いています。

もっと日本語が身についたら、専門学校でさらに介護の勉強をしたいと考えています。“ひまり”で感じるのは、職員の仕事に対するやる気が強いこと。お互いに頑張り協力し合える雰囲気が凄く好きです。同僚というより、家族みたいな気持ちで働いています。今はとっても楽しいです、とにかく皆さん優しくて最高の職場だと感じています。」

当時のことを振り返り、気持ちが溢れ涙しながら話されるロゼリさん。思いの強さが伝わり、思わずみんなもらい泣きしてしまいました。

ロゼリさんと同じくブラジルから来日し、日本語を学んだというエリカさん。彼女もまた言葉の壁や文化の違いに悩んだという。

「来日前に前もって日本の文化について本で勉強しましたが、実際に生活をしてみると全然違いました。基本的な日本語は学びましたが、職場でスムーズな会話ができるか心配でした。利用者さんとは、言葉だけでなく、表情や仕草を見ながらコミュニケーションを取っています。ついボディタッチをしてしまうのですが、不快に思われないよう、何を望んでおられるかを考えて、それぞれの方に合った接し方をするように心がけています。

職場では、毎日新しいことを学んでいます。お世話をすることが好きで、お茶を淹れると手を撫でてくださり、靴を用意すると“ありがとう”と言っていただき、小さな場面一つひとつで感謝の気持ちが返ってくると嬉しくてやりがいを感じます。

文化の違いなど、気を遣わないといけない事もありますが、それは私のチャレンジと捉え、マイナスなことだと思っていません。これからもっと日本語をレベルアップさせ、利用者さんと色々な話題で会話を楽しみたいと思います。

そのために、いくつかの日本語教室に通っています。オンラインコースを受講したり、中にはブラジル人だけでなく、中国人や日本の学生も参加しお互いに交流できる教室や、調理やお寺に出かけ、日本文化に触れながら幅広い勉強ができる教室もあります。

私たちの他にも、たくさんのブラジル人が日本で働くことに興味を持っています。翻訳アプリなどを上手く利用して、安心して働けることがわかれば、もっと気軽に介護の道に進む人材も増えると思っています。」とエリカさんは話す。

こうやってお話を聞くと雇用する側と働く側、どちらも互いに大変ではあるが結果的には、日本で一緒に働く現状をプラスに感じているということがわかりました。

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外国人介護人材雇用の普及と定着に向け必要なこと

最後に外国人2名を雇用し、実際に取り組む中で見えてきた課題等について、藤原さんに伺いました。

「二人がいることで、職場環境を振り返ることができました。施設全体としてはプラスに感じる事の方が多いですね。常に意欲的で努力家、入ったからには目標を持って学び向上したいという気持ちが、強く伝わってきます。

外国人だからという線引きはせず、評価できる部分はしっかり褒めて、できない事にはきちんとアドバイスをしています。彼女たちには、ここで介護の仕事を通し、技術だけでなく人との関わり方や日本語の上達など、長い将来に向けて自分自身がステップアップできる力を身に着けて欲しいと思っています。

現在の雇用形態は3か月の更新制で、就労内容を相談しながら今後も雇用を継続していきたいと考えています。ただ、仕事をスムーズに進める上で大変な事があるのも事実で、悩ましいところです。

資格取得も勧めたいですが、日本語が理解できなければ勉強や試験も難しいというのが現状です。数か月が経ち感じるのは、まず一番ネックである言葉の壁をカバーできるよう、雇用開始後にしばらく通訳サポートがあれば、かなりの業務改善が図れたということ。翻訳の時間短縮はもちろん、精神面で感じる安堵感が違ったと思います。

外国人雇用と定着に向けては雇用主の努力だけでなく、行政、ハローワーク、企業の連携が必要です。雇用を促進することと同時に継続的なフォローや補助制度により、日本で介護の仕事をしたいと希望される多くの外国人を受け入れることができると思います。

今後も行政との連携を深め、サポートしていただきながら今以上に業務の改善を図り、株式会社ひまりで働く二人が、日本で楽しく生き生きと働ける外国人のモデルケースになってくれるよう願っています。」

「ただ人材不足を解消するためだけに外国人を雇用するのではない。国籍の違いで区別はせず、一人ひとりが個性を活かし自分に合ったやり方やスピードで成長して欲しい」と最後にこう語る藤原さん。そして実際に現場を通して見えてきたものがあるからこそ、他人事ではなく自分事としての意識が強くなった加地さんと松村さん、温かい職場に感謝しながら、前向きに仕事に励むエリカさんとロゼリさん達の姿勢に感銘を受けました。

ぜひ、これからも現場のリアルな言葉を発信し続け、これから後に続く方々の道標になることを祈っています。

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